高橋巌先生について

シュタイナー

2024年3月30日に日本におけるシュタイナー研究の第一人者である高橋巌先生が95歳で逝去されました。ご冥福をお祈りいたします。

シュタイナーの本を多く翻訳され、その他にも多くのシュタイナーの思想を勉強会や講演で発信し続けた高橋先生が、シュタイナーの命日に逝去されたこともとても深い意味があるのではないかと思っています。

 

高橋先生の最後の講義は亡くなる前日の3月29日、横浜の朝日カルチャーセンターでの『キリスト衝動』出版記念講義になりました。

私はこの講義はリモートで参加させて頂きました。とてもお身体が辛そうで、お話される声も途切れたりしながらでしたが、『キリスト衝動』の講義をこの日にする意義(3月下旬はキリストが受難に遭った時期)や音楽についてなど、お話されていました。

「どうしても今日、この日に皆さんと会ってお話したかった」と仰られ、その強い意志をリモートでも感じることができました。

 

高橋先生が体調を崩されたのが昨年の年末とのことで、そのあとの定期講義(吉祥寺、横浜、町田の3か所ですが私は町田のみ参加していました)は先生がシュタイナーの本を音読するのがお辛いようでしたので、時には参加者がテキストを順番に音読することもありましたし、参加者の意見交換や疑問などを発表する場になっていました。

 

私は2021年1月から町田教室に毎月参加していたのですが、毎月高橋先生がテキストである先生の翻訳したシュタイナーの本を音読され、そのあとにその内容の説明をされるという講義形式でした。(この定期講座は日本人智学協会のホームページを見ると2011年から14年続いていたようです。)

約2年間、月に一度の町田教室での聴講でしたが、その間高橋先生と直接お話できたのは2回きりでした。

1度目は参加して2回目の教室が終わったあと、先生が帰る支度をされていてどなたも質問やお話しされる様子がなかったので、その日の講義について質問に行きました。

その日は『21世紀の総括』第9講を読んでいく講義でした。講義の最後の部分で「自分にとってかけがえのないものと出会う」という話になりました。「自分にとってかけがえのないものを見つける。自分自身がかけがえのないものと思う。このことが私たちが霊的生活を送っているかという確認である」というような内容で、この「かけがえのないもの」とは一体何なのか?私はピンときませんでした。

ですので、高橋先生に「自分にとってかけがえのないものを見つけるというのはとても難しいです。これは道徳的なことをするという意味ではないですよね?」という質問をさせていただきました。

そうすると高橋先生は上着のファスナーをする手を止めてくださり、私にこう話されました。「かけがえのないものというのは、その人が好きなことですね。道徳的なことをしなければならないわけではないです。」というようなお答えでした。その答えに対し私は「それがミカエルということですね」と返すと、先生は笑顔で「そうですね」と仰られました。

この短いやり取りはとても嬉しかったです。

 

2度目の高橋先生との直接のやりとりは、2022年10月4日。この町田教室の数週間前に、横浜教室で『ミカエルの使命』の特別講義があり、私はリモートで聴いていました。

この講義の中で、「シュタイナーの勉強会の場が、霊的なものであるという認識が共同体を感じるうえで大切・・・」という部分を読まれていて、私はこの部分にとても感動しました。

なぜ感動したかというと、町田教室に通い始めてから毎回思っていたことがあり、それは、教室で高橋先生の話を聴いている時に、毎回この場がまるで教会の中のようで、先生は神父さんが教会でお話し(説教)をしているように見え、町田公民館の教室が神聖な場所になっていると感じていたのです。

なので、シュタイナーの『ミカエルの使命』の本の中の『共同体を人智学的に形成するために』の部分で、「シュタイナーの勉強の場が霊的なものであるという感情を呼び起こさなければならない。」という部分は、自分が感じていた内容と一緒だったことがとても嬉しかったのです。

大切なのは、人智学を学ぶとき、その学習に霊的な感情を浸透させることです。それにはすでにこの部屋に入るときの扉を、入り口を、聖域へ参入するときのような気持ちで渡るということです。その空間がどんなに世俗的な空間であっても、共通の人智学の読書会をやることで聖域に変わるのです。人智学の生命を一緒に学ぶための集まりであれば、どんなときでもこの感情を呼び起こさねばなりません。(178p)

『ミカエルの使命』春秋社 ルドフル・シュタイナー  〔訳〕高橋巌

そんなわけで、翌月の町田シュタイナー勉強会(2022年10月4日)では、高橋先生に自分もこのシュタイナーの勉強の教室が神聖な場であると感じていた事を熱く伝え、『ミカエルの使命』本にサインを頂きました。

 

この2回が高橋先生との直接のやり取りで、あと一度、講義中に先生から名前を呼んで頂き、皆さんの前で意見を話すという機会がありました。サインを頂いた時に高橋先生の手帳に私の名前を書くように頼まれ、そのメモを見ながら先生は私の『ミカエルの使命』の本の最初のページに私の名前付きでサインを書いてくださいました。(上の写真)この時に名前を憶えてくださったのかなと思います。

この時は、先程の「シュタイナーの勉強の場が霊的なものであるという感情を持つ」ということについてお話しさせていただきました。

 

私が高橋巌先生の講義を伺うかけがえのない時間は残念なことに2年で終わってしまいましたが、先生からこの2年のあいだに様々なことを教えて頂いたと思っています。

講座中の先生のお話はメモで残っているので、これからゆっくり復習していきたいと思っています。

写真説明:2022年10月4日の町田講義の後で頂いた高橋巌先生直筆のサイン。日付と私の名前も書いてくださいました。一緒に写したのは、勉強会でいつも使っていたRollbahnのノート。一冊使い終わりそうだったのでもう一冊新しいものを購入したところでした…。