バイオダイナミック農法の歴史

シュタイナー

シュタイナーから現代までの流れを整理してみました

私がバイオダイナミック農法に興味を持ったきっかけは、ワイン醸造家の Nicolas Joly の本でした。

Nicolas Jolyについてはこちら  バイオダイナミック農法のワイン

そこにはアストロロジーチャートが掲載されていて、

「占星術を農業に活かしている人がいる!」

という驚きがありました。

当時はまだシュタイナーについてほとんど知らなかったのですが、その一冊が後に人智学へとつながる入口になり、学びを進めていきました。

しかし調べていくうちに、意外な事実が見えてきたのです。

バイオダイナミック農法の実践家は知っている事実なのかもしれませんが、現在私たちが「バイオダイナミック農法」と呼んでいるものは、シュタイナーがそのまま完成させたものではないようなのです。

今回バイオダイナミック農法の歴史を辿ることで、シュタイナーがこの農法を提唱した当時から現在に至る流れが分かってきました。そしてそれだけでなく、シュタイナーの学びで大切にしなければならない考え方も見えてきました。

 

 

 出発点はシュタイナーの『農業講座』

1924年、Rudolf Steiner は、後に『農業講座(GA327)』として出版される一連の講義を行いました。

ここで彼は、

  • 農場を一つの生命体として考えること
  • 土壌の生命力
  • 宇宙と植物の関係
  • プレパラート(調合剤)の使用

などについて語っています。

ただし、ここで重要なのは、

シュタイナーは現代の種まきカレンダーや農業用占星術チャートを作ったわけではない

ということ。

実際に『農業講座』を読むと、

  • 惑星
  • 黄道帯
  • 季節

について語られているものの、

現代占星術のようなホロスコープは出てきません。

むしろシュタイナーの関心は、

「植物は宇宙とどのような関係を持っているのか」

という問いにありました。

 シュタイナーの死後、研究者たちが実験を始める

シュタイナーは『農業講座』出版の翌年の1925年に亡くなります。

そのため、

『農業講座』はある意味で「完成された農法マニュアル」ではなく、

農業者たちへの問題提起として残されました。

そこで世界各地の農業者たちが、

実際に畑で試行錯誤を始めます。

プレパラートの改良。

土壌観察。

宇宙リズムの研究。

こうしてバイオダイナミック農法は、農家たちの実践によって発展していくことになります。

 マリア・トゥーンの登場

その中で最も大きな影響を与えた人物が

Maria Thun(マリア・トゥーン)です。

1950年代から彼女は、月の位置と植物成長の関係について長期間の観察を始めました。

その結果、

有名な

  • 根の日
  • 葉の日
  • 花の日
  • 実の日

という分類を提案。

例えば、

根の日:おうし座・おとめ座・やぎ座

葉の日:かに座・さそり座・うお座

花の日:ふたご座・てんびん座・みずがめ座

実の日:おひつじ座・しし座・いて座

という区分です。

ここから現在の「種まきカレンダー」が生まれました。

彼女は占星術家はないのでチャートを作ったりはせず、天体を利用するという意味ではどちらかというと

「農業天文学」といった方が近いのではないかと思います。

しかしこれはシュタイナーの教えそのものではない

ここは誤解されやすいのですが、

多くの人は、

「バイオダイナミック農法=シュタイナーの種まきカレンダー」

と思っています。私もそう思っていました。

しかし実際には、

根の日・葉の日・花の日・実の日は、

シュタイナーではなくマリア・トゥーンの研究成果なのです。

つまり、

シュタイナー

宇宙と農業の関係を提起

マリア・トゥーン

実験しカレンダー化

という流れです。

ニコラ・ジョリーの登場

さらに後の世代になると、

Nicolas Joly (ニコラ・ジョリー)のような実践家が現れます。

彼はフランスのロワール地方でワイン造りを行いながら、

バイオダイナミック農法を独自に発展させました。

ジョリーは

  • シュタイナーを読む
  • マリア・トゥーンも参考にする
  • 自ら畑を観察する

という姿勢を取りました。

つまり、

「教えに従う人」

ではなく、

「探究を続ける人」

だったのです。

現在のバイオダイナミック農法

現在のバイオダイナミック農法には大きく分けていくつかの流れがあります。

原典重視派

シュタイナーの『農業講座』を中心に読む。

現在もゲーテアヌム周辺をはじめ、シュタイナーの『農業講座』そのものを重視する実践家たちがいます。

彼らが重視しているのは必ずしも後世に発展した種まきカレンダーではありません。

もちろん月や惑星、黄道帯といった宇宙的な影響についても重視しますが、それらを農場全体の生命的な営みから切り離して考えるわけではありません。

むしろ、

  • 農場を一つの生命体として捉えること
  • 土壌の生命力を高めること
  • 農場内で循環を作ること
  • プレパラートを用いること

など、『農業講座』そのものに語られている内容を重視する傾向があります。


マリア・トゥーン派

種まきカレンダーを重視しています。

宇宙との関係については、「天文学上そこに存在している天体」を見る傾向があります。

そのため、占星術で用いられる記号的な黄道十二宮ではなく、実際の恒星座を基準に天体の位置を捉えています。

また、根の日・葉の日・花の日・実の日という区分を農作業の参考にしている実践家も多いようです。

原典重視派と比べると、天体のリズムと農作業との関係をより具体的に活用する傾向が見られます。


デメテル認証農家

Demeter International の基準に従って実践しています。

基準の多くはシュタイナーの『農業講座』に由来しており、

  • 農場を一つの生命体として捉えること
  • 農場内の循環を重視すること
  • プレパラートを用いること

などが重視されています。

一方で、「種まきカレンダー」の使用は認証基準には含まれていません。

そのため、デメテル認証を取得している農家の中にも、種まきカレンダーを積極的に活用する人もいれば、必ずしも重視しない人もいるようです。

デメテル認証は、バイオダイナミック農法の実践の思想的な流派というよりは、実際は「認定基準」に近いと言えます。


探究実践派

ニコラ・ジョリーのように、自ら観察と研究を続けている実践家です。

シュタイナーの『農業講座』やバイオダイナミック農法の伝統を尊重しながらも、それを固定的な方法として受け取るのではなく、自身の土地や作物に合わせて独自の実践を発展させています。

ニコラ・ジョリーは、

  • シュタイナー
  • マリア・トゥーン
  • フランスのバイオダイナミック運動
  • 自らの観察と経験

を融合しながら実践を続けています。

そのため、独自研究派は特定の流派や基準に重点を置くというよりも、「観察し、試し、学び続けること」を重視する傾向があるようです。


つまり現在のバイオダイナミック農法は、

一つの固定された方法ではなく、

約100年にわたって探究した歴史であり、その歴史とともに様々な形態に分かれて存在しています。

バイオダイナミック農法の歴史を調べて見えてきたこと

今回、バイオダイナミック農法の歴史について調べてみて驚いたことは、

シュタイナーの『農業講座』では実際の天体の位置や動きを重視しており、現代占星術で一般的なホロスコープ技法をはじめとしたいわゆる「チャート」を用いていたわけではなかったということです。

『農業講座』を改めて読んでみると、私がニコラ・ジョリーの本で出会ったようなホロスコープを作る記述はありませんよね。

種まきカレンダーももちろん作っていません。

むしろ問いかけていたのは、

「植物は宇宙とどのようにつながっているのか」

ということ。

この問いに対して、

マリア・トゥーンは実験で応え、

ニコラ・ジョリーはワイン造りで応え、

現代の実践家たちはそれぞれの畑で応え続けています。

私はニコラ・ジョリーの本の中のアストロロジーチャートに惹かれたことが、人智学を深めるきっかけでした。

ですから、シュタイナー自身はホロスコープチャートを作っていなかったと知ったときは正直かなり「ずっこけ」ました(笑)。

それでも、あの出会いがなければシュタイナーをここまで学ぶことはなかったと思います。

今回調べていて印象的だったのは、約100年にわたるバイオダイナミック農法の歴史が、シュタイナーの言葉をそのまま繰り返す歴史ではなかったということです。

原典を読み直す人もいれば、実験を重ねる人もいる。認証制度を整える人もいれば、自らの畑で新たな可能性を探る人もいる。

その姿を見ていると、人智学において大切なのは「何が正しいか」を決めることよりも、自ら観察し、考え、問い続けることなのではないかと感じます。

今回この歴史をたどる中で、私自身もまた「人智学との付き合い方」で書いたように、シュタイナーを妄信するのではなく、響くところを深めながら、自分なりの問いを育てていきたいと改めて思いました。